HAPS(成層圏通信プラットフォーム)?

HAPS? もうすぐ実用化なんですね。




HAPS(成層圏通信プラットフォーム)の国内外の動向:空の基地局が通信の未来を変える

地上約20kmの成層圏に無人航空機などを飛行させ、広域の通信エリアを構築する「HAPS(High Altitude Platform Station)」。山間部や離島、災害時など、地上の通信網が届きにくい場所での活用が期待される次世代の通信インフラです。ここでは、HAPSの国内外における最新動向を解説します。


HAPSとは? その目的と利点

HAPSは、「空飛ぶ基地局」とも呼ばれ、地上から約20km上空の成層圏を数週間から数ヶ月にわたり無着陸で飛行し、地上のスマートフォンなどに直接電波を送受信するシステムです。

成層圏は、雲よりも高く、天候の影響を受けにくく風も穏やかなため、太陽光パネルを搭載した機体が安定してエネルギーを得ながら長期間滞空するのに適しています。

HAPSの主な利点

  • 広大なカバーエリア: 1機のHAPSで半径50kmから100kmという広範囲をカバーでき、地上に多数の基地局を設置するのに比べ、効率的にエリアを構築できます。
  • 「つながらない」の解消: 地上基地局の設置が困難な山間部、離島、海上、あるいは通信インフラが未整備な発展途上国などに、空から通信環境を提供します。
  • 災害への強さ: 地震や台風などの災害で地上の通信設備が被害を受けても、上空のHAPSは影響を受けにくく、迅速な通信網の復旧手段として期待されています。
  • 衛星より低遅延: 地表からの距離が人工衛星(特に静止衛星)に比べて格段に近いため、通信の遅延が少ないという特長があります。
  • 既存スマホが利用可能: 特別な受信機を必要とせず、現在私たちが使っているスマートフォンで直接通信できる点が大きなメリットです。

【国内の動向】 ソフトバンクとドコモが商用化へ加速

日本では、ソフトバンクとNTTドコモがHAPSの実用化を牽引しており、2026年頃の商用サービス開始を目標に開発競争を繰り広げています。

ソフトバンク:2026年に「気球型」でプレ商用サービス開始へ

ソフトバンクは、2017年から子会社「HAPSモバイル」(2023年にソフトバンクが吸収合併)を通じてHAPS開発の先陣を切ってきました。

当初は、米AeroVironment社と共同でソーラーパネルを搭載した飛行機型の無人機「Sunglider」の開発を進めていましたが、2025年6月26日、早期の商用化を目指し、米Sceye(サイ)社が開発する**気球・飛行船型(LTA型)**の機体を活用する方針を発表。これにより、2026年に日本国内でプレ商用サービスを開始する計画を明らかにしました。

まずは災害時などの緊急通信需要に応える形でサービスを始め、2027年以降には定常的な通信サービスの提供も視野に入れています。

NTTドコモ:「飛行機型」で2026年の商用化目指す

NTTドコモは、欧州の航空宇宙大手Airbus社と提携し、同社のソーラープレーン「Zephyr(ゼファー)」を活用したHAPSの実現を目指しています。

Zephyrは64日間という長期の連続飛行記録を持つなど、高い技術実績を誇ります。ドコモは、アフリカ・ケニアでの実証実験で、成層圏を飛行する機体と地上のスマートフォンとの間で、世界で初めてデータ通信に成功するなど、着実に実績を積み重ねています。同社も2026年頃の商用化を目標に掲げています。


【世界の動向】 開発競争と国際連携が進む

世界でもHAPS開発は活発化しており、技術開発競争とともに、標準化やルール作りに向けた国際連携も進んでいます。

  • 主要プレイヤー: 日本の2社のほか、前述のAirbus(欧州)やSceye(米国)などが代表的な企業です。過去にはGoogleの親会社Alphabet傘下のLoonが気球を使ったHAPSの商用サービスをケニアで開始しましたが、コスト面を理由に2021年に事業を終了しており、ビジネスとしての持続可能性が今後の鍵となります。
  • HAPSアライアンス: HAPSの普及と事業環境の整備を目指し、2020年に「HAPSアライアンス」が設立されました。ソフトバンク、Airbus、Nokia、Ericssonなど、通信事業者から機器メーカーまで幅広い企業が参加し、技術標準化や各国の規制当局への働きかけを行っています。
  • 市場予測: 複数の調査会社がHAPS市場の将来的な成長を予測しており、その潜在的な市場規模は数千億円規模に達するとの見方もあります。

商用化への課題

夢のある技術である一方、HAPSの本格的な普及にはいくつかの課題も残されています。

  • 法整備と周波数割り当て: HAPSは航空機でもあり、無線局でもあるため、航空法や電波法といった法整備が不可欠です。特に、どの周波数帯をHAPSに割り当てるかについては、現在、総務省を中心に国内外で議論が進められています。
  • 機体の技術的課題: 成層圏の厳しい環境(マイナス数十度の低温や低気圧)で長期間安定して稼働し続ける機体の耐久性や、特に冬場の高緯度地域での太陽光によるエネルギー確保などが技術的な課題です。
  • 国際調整: HAPSは国境を越えて飛行する可能性があるため、関係各国との国際的な調整やルールの策定が重要となります。
  • 事業の採算性: Loonの撤退が示すように、開発・運用コストをいかに抑え、持続可能なビジネスモデルを構築できるかが大きな挑戦です。

空から全ての人とモノをつなぐHAPS。日本と世界の企業が切磋琢磨し、技術的・制度的な課題を乗り越えた先には、私たちの生活や社会を大きく変える新たな通信の未来が待っています。2026年とされる商用化元年に向けて、その動向から目が離せません。