NTN(非地上系ネットワーク)?

NTN(非地上系ネットワーク)?




NTN(非地上系ネットワーク)は、従来の地上インフラに加えて、衛星やHAPS(高高度プラットフォーム)などを活用して通信カバレッジを拡大し、高速・低遅延な通信を実現する次世代の通信インフラです。

1. NTNの概要と重要性

NTNは、地理的な制約や災害時などの緊急時においても、安定した通信環境を提供する可能性を秘めています。これにより、これまでは通信が困難だった山間部、海上、離島などでのサービス提供が可能となり、社会全体の自動化・高度化を一層推進することが期待されています。特に5G/Beyond 5Gの「超カバレッジ拡張」において重要な役割を担う技術として注目されています。

主なNTNの種類として、以下のものが挙げられます。

  • LEO(低軌道衛星): 地上から比較的低い高度(約600km/1,200km)を周回する衛星。高速・低遅延な通信が可能で、動画ストリーミングやゲームなどにも適しています。大規模な展開が必要となる点が課題です。
  • GEO(静止軌道衛星): 地上から約36,000kmの高度に静止する衛星。広範囲をカバーできますが、遅延が大きい傾向があります。
  • HAPS(高高度プラットフォーム): 成層圏などを飛行する無人航空機(ドローンや飛行船など)。一時的な通信基地局として災害時やイベント時に活用されるほか、山間部や離島へのインターネット提供なども期待されています。

2. NTNの技術動向と標準化

3GPP(移動通信標準化プロジェクト)では、Release 17でNTNが議論され、Release 18ではさらなる広帯域化などが検討されています。サービスリンクは、n255(1.6GHz帯FDD)およびn256(2GHz帯FDD)の2バンドが規定されており、今後もバンドが追加されていく予定です。

技術面では、衛星の打ち上げコストの低下や、高周波RFおよびコンピューティングリソースの上空配置における物理的限界(サイズ、重量、電力、コスト:SWaP-C)の克服に向けた取り組みが進められています。また、移動する衛星やHAPSからの接続安定性やハンドオーバー技術の開発も重要です。

3. NTNの市場規模

NTN市場は急速な成長が見込まれています。

  • 5G NTN市場: 2023年には49.9億米ドルと推定され、2024年から2031年の予測期間中に30.60%の年平均成長率(CAGR)で成長すると予想されています。別の予測では、2024年に72億米ドル、2029年には317億米ドルに達し、CAGRは34.7%になるとされています。
  • 衛星NTN市場: 2025年の5億6,000万米ドルから、38.0%のCAGRで拡大し、2030年には27億9,000万米ドルに成長すると予測されています。

4. NTNのユースケース

NTNは、様々な分野で新たなサービスやソリューションの創出が期待されています。

  • 災害対策: 災害時の通信手段の確保、安否確認、現場状況の迅速な把握。緊急災害医療車にアンテナを搭載し、災害現場と病院間の連携やEMIS(広域災害救急医療情報システム)へのアクセスを実現。
  • 農業・林業・漁業: 作物の生育状況監視、灌漑の自動制御、森林火災の早期発見、違法伐採の監視、広大な牧場での牛の頭数管理の自動化(衛星IoT)。
  • 海上・航空交通: 海上での高速通信サービスの提供、海上交通の安全性向上、海上物流の効率化、海洋調査・研究の促進、海上レジャーの充実化。航空機の運航支援。
  • 地域活性化: 山間部や離島など、従来の地上通信網が届きにくいエリアへのインターネット提供、遠隔医療、遠隔教育。
  • 産業用途: 建設現場や鉱山などでのIoTデバイス接続、遠隔監視、作業指示。
  • その他: eCallを利用した事故車両の救済、電気自動車による被災地での電源・通信提供、小型無人機による無人配送。

5. NTNの課題と今後の展望

NTNの普及には、いくつかの課題が存在します。

  • 宇宙環境の課題: 宇宙空間での機器の耐久性(極端な温度、放射線)、安定した発電・蓄電、宇宙ゴミ(スペースデブリ)問題。
  • SWaP-Cの課題: 高周波RFやコンピューティングリソースを上空に配置する際のサイズ、重量、電力、コストの制約。
  • 絶え間ない動きへの対応: 衛星やHAPSの動きが接続セットアップ、信号品質、ハンドオーバーに与える影響。
  • 経済的な課題: 衛星の打ち上げや維持管理にかかる高額な初期投資と運用コスト。
  • 規制上の課題: 国際的な周波数割り当てや衛星軌道の調整、各国の法規制との整合性。国際的な協力体制の整備が不可欠です。

これらの課題を克服するためには、技術革新、コスト削減、そして国際的な規制枠組みの改善が不可欠です。NTNはまだ発展途上の技術ですが、将来的には世界中のあらゆる場所で通信の可能性を広げ、高度自動化社会の実現に大きく貢献すると期待されています。